インクルーシブ防災とは?|重要性と企業でできる取り組みを紹介
2026/07/06
災害は誰のもとにも等しく訪れますが、被害の大きさは一人ひとり異なります。
障がいのある方、高齢者、外国人従業員、妊産婦など、災害時に支援を必要とする人は私たちのすぐそばにいます。
従来の「健常者中心」の防災では、こうした多様な人々を守りきれないことが東日本大震災で明らかになりました。
本記事では、企業の防災担当者やBCP担当者に向けて、インクルーシブ防災の概念や背景、国内事例、そして企業で今日から実践できる具体的な取り組みまでを解説します。
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インクルーシブ防災とは
インクルーシブ防災とは、年齢・性別・障がいの有無・国籍などにかかわらず、すべての人を等しく守ることを目指す防災のあり方です。
語源の「include(含める)」が示すとおり、誰一人取り残さないという考え方を基盤とします。
災害時に支援を必要とする人を「特別な存在」として後回しにするのではなく、最初から防災計画に組み込んでおく点が大きな特徴です。
従来の防災は健常者を前提に設計されてきましたが、実際の現場では多様な人々が共に暮らし、共に働いています。
そのため、インクルーシブ防災は平時からの準備段階で、多様性を当然のものとして織り込むことが求められます。
企業においても、多様な従業員が安心して働ける環境づくりの一環として、この視点を取り入れることが急務となっています。
従来の防災との違い
従来の防災は、健常な成人が自力で避難できることを前提に組み立てられてきました。
一律の避難訓練、画一的な備蓄品、健常者基準の避難経路など、平均的な人物像を中心に据えた設計です。
しかしインクルーシブ防災では、多様性を前提として一人ひとりのニーズに合った支援を計画段階から組み込みます。
車いす利用者、視覚・聴覚障がい者、外国人、高齢者、妊産婦など、それぞれの状況に応じた配慮を「特別扱い」ではなく「必要な設計」として位置づける点が、従来との決定的な違いです。
要配慮者と合理的配慮の考え方
インクルーシブ防災を理解するうえで欠かせないのが「要配慮者」と「合理的配慮」という概念です。
要配慮者とは、災害対策基本法において、高齢者、障がい者、乳幼児その他の特に配慮を要する方を指します。
合理的配慮とは、その人が必要とする支援を、過度な負担にならない範囲で提供することを意味します。
たとえば、聴覚障がいのある方への文字情報の提供、車いす利用者への段差解消などが該当します。
インクルーシブ防災は、これらの考え方を防災のあらゆる場面に応用するアプローチです。
インクルーシブ防災が
広まったきっかけ
インクルーシブ防災という言葉が日本で広く認知されるようになった背景には、東日本大震災での痛ましい経験と、その後の国際的な防災枠組みの策定があります。
災害時に最も影響を受けやすい人々の存在が改めて浮き彫りになり、防災のあり方そのものが問い直されたのです。
国際社会においても、防災は「支援される側」と「支援する側」を分けるものではなく、すべての人が主体的に参加するべきものという認識が広がりました。
ここでは、インクルーシブ防災が国内外で重要視されるきっかけとなった出来事を整理します。
東日本大震災で明らかになった災害弱者の課題
2011年の東日本大震災では、障害者の死亡率が一般住民よりも大きく上回る事例が報告されています。
一例として、宮城県南三陸町では、全人口に対する死亡率が4.5%であったのに対し、障害者人口に対する死亡率は13%に達しました。
東日本大震災では、障がいのある方が避難情報を取得できない、移動が困難である、避難所での生活に支障があるといった課題が顕在化しました。
災害時に支援を必要とする人々が「災害弱者」となりやすい構造的な問題が明らかになったのです。
この経験から、避難情報の伝達手段の多様化や、移動支援、個別避難計画の重要性が広く認識されるようになりました。
仙台防災枠組と当事者参画の理念
2015年に仙台市で開催された第3回国連防災世界会議では、「仙台防災枠組2015-2030」が採択されました。
この枠組みでは、障がいのある方を「支援を受ける対象」ではなく、防災活動の「主体」として明確に位置づけたことが画期的でした。
会議自体も、手話通訳の配置、バリアフリー会場の設計、多様な参加者の登壇など、インクルーシブな運営が実践されました。
「防災は全員参加のものである」というメッセージが、国際的なスタンダードとして発信された瞬間といえます。
インクルーシブ防災の取組事例
インクルーシブ防災の概念を実際の取り組みに落とし込んでいる先進事例を見ることで、企業が参考にすべき視点が明らかになります。
ここでは、自治体の事例として大分県別府市、教育現場の事例として宮城県立女川高等学園を紹介します。
これらの事例に共通するのは、当事者を「守られる存在」ではなく「共に防災に取り組む主体」として位置づけている点です。
企業の防災担当者にとっても、従業員一人ひとりを主体として巻き込む姿勢が、実効性のある防災体制づくりの鍵となります。
大分県別府市の個別避難計画と地域連携
大分県別府市は、2007年の別府群発地震やマンション火災死亡事故をきっかけに、障がいのある方の避難不安を出発点としたインクルーシブ防災に取り組んできました。
行政・地域住民・福祉関係者などが連携し、個別避難計画の作成を軸にした取組は、共通するモデルとしても紹介されています。
別府市では、要配慮者一人ひとりに対する個別避難計画の策定、当事者参加型の避難訓練、災害時ケアプランの整備、地域での安心ネットワーク構築、福祉事業者のBCP策定支援などを総合的に進めています。
この取り組みは、行政だけでは支援が行き届かない部分を地域全体で補い合う仕組みとして高く評価されています。
宮城県立女川高等学園の当事者主体型防災教育
宮城県立女川高等学園は、知的障がいのある生徒が在籍する特別支援学校です。
同校では、生徒自身が避難所運営の担い手となる実践型の防災教育を行っています。
生徒たちは班に分かれて役割を担い、地域住民と協力して炊き出しや受付業務を行うなど、避難所運営を体験します。
「守られる側」ではなく「担う側」として防災に参加する経験は、生徒の主体性と地域への貢献意識を育てています。
企業の防災訓練でも、多様な従業員が役割を持って参加する設計が参考になります。
多様な従業員を巻き込んだ防災体制づくりには、平時からの情報共有と緊急時の即応性が欠かせません。
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企業がインクルーシブ防災に
取り組む重要性
インクルーシブ防災は自治体や福祉施設だけの課題ではありません。
多様な人材を雇用する企業にとっても、避けて通れない経営課題となっています。
働き方の多様化やグローバル化が進むなか、従業員の構成は確実に多様化しており、防災対策もこれに対応する必要があります。
また、BCP(事業継続計画)の観点からも、災害発生時に従業員全員の安全を確保できる体制を整えることは、事業継続の前提条件です。
ここでは、企業がインクルーシブ防災に取り組むべき2つの重要な理由を解説します。
ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)との関係
近年、多くの企業がダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を経営戦略の柱に掲げています。
性別、年齢、国籍、障がいの有無を問わず多様な人材が活躍できる組織を目指す動きです。
多様な人材を受け入れる以上、災害時にも全員の安全を等しく守る仕組みがあって初めてD&Iは完成します。
防災が健常者中心のままであれば、企業としての一貫性を欠くことになります。
インクルーシブ防災は、D&Iの理念を実務面で支える重要な要素なのです。
障がい者雇用の増加と企業の社会的責任
厚生労働省の発表によれば、令和6年の民間企業で雇用されている障がい者数は約67.7万人で、21年連続で過去最高を更新しています。
法定雇用率の段階的な引き上げにより、今後もこの傾向は続く見込みです。
障がい者雇用は年々増加しており、企業にとって障がいのある従業員を災害から守る体制づくりは、もはや一部の特別な企業に限られた課題ではなく、すべての企業に共通する社会的責任となっています。
外国人労働者の増加も同様の傾向にあり、企業のインクルーシブ防災への対応は「他人事」ではなく「自社の課題」として捉える必要があります。
企業でできる
インクルーシブ防災の具体策
インクルーシブ防災の理念を企業で実装するためには、施設・備蓄・訓練・情報伝達という4つの側面から多角的にアプローチする必要があります。
ここからは、企業の防災担当者が明日から取り組める具体的な施策を紹介します。
大規模な投資が必要なものから、小さな見直しで始められるものまで、自社の状況に合わせて優先順位をつけて進めることが重要です。
完璧を目指すのではなく、できるところから着手する姿勢がインクルーシブ防災の実現につながります。
避難経路のバリアフリー化
避難経路のバリアフリー化は、インクルーシブ防災の基本中の基本です。
日常的に問題なく通れる通路でも、災害時には障害物が落下したり、停電でエレベーターが使えなくなったりします。
スロープの設置、通路幅の確保、視覚障がい者向けの誘導サイン、聴覚障がい者向けの光警報装置など、ハード面の整備を計画的に進めます。
「すべての従業員が避難できる前提」を平時から疑い、現状を点検することが第一歩です。
多様なニーズに応える備蓄品の拡充
従来の備蓄品は健常な成人を前提としたものが中心でした。
インクルーシブ防災の観点では、多様なニーズに応える備蓄が求められます。
聴覚障がい者向けの筆談ボードやタブレット、外国人従業員向けのハラール対応食品、高齢者向けの柔らかい食品や常備薬の配慮、乳幼児向けの粉ミルクやおむつなど、自社の従業員構成に合わせて備蓄品を拡充します。
保存水も、飲みやすいキャップ形状のものを選ぶなどの工夫が有効です。
全員参加型の防災訓練
防災訓練は、机上訓練だけでは見えない課題を発見する貴重な機会です。
実際に多様な従業員が参加することで、車いすが通れない通路、情報が伝わらない場面、視覚障がい者への対応不足など、現場の課題が浮き彫りになります。
訓練後には参加者からフィードバックを集め、PDCAを回すことが重要です。
当事者の視点を取り入れた改善を繰り返すことで、訓練が形式的なものから実効性のある備えへと進化していきます。
多言語マニュアルと安否確認システムの整備
外国人従業員が増えるなかで、防災マニュアルや避難指示の多言語化は欠かせません。
自社の従業員の国籍構成に合わせて実在する言語に対応し、英語だけに頼らないことが大切です。
やさしい日本語やイラストの活用も有効です。
そして、災害時に最も重要なのが安否確認の仕組みです。
電話は災害時に混線して使えないことが多く、手作業での安否集計には限界があります。
一斉送信と自動集計が可能な安否確認システムは、インクルーシブ防災の基盤となるツールです。
多様な従業員の安否を災害発生直後から迅速に把握するには、専用の仕組みが不可欠です。
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まとめ
インクルーシブ防災は、特別な対応ではなく「全員の安全を守るための基本設計」です。
多様な従業員が安心して働ける環境は、企業価値の向上にも直結します。
バリアフリー化、備蓄の拡充、全員参加型訓練、安否確認システムの導入など、できるところから一歩ずつ進めましょう。
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