中小企業のBCP(事業継続計画)対策が必要な理由と具体事例を解説
2023/11/06
企業の経営者は、自然災害などの予期せぬ事態によって事業活動が停止したり、大きな損害を受けたりする可能性があるため、事業を継続させるための計画や対策を立てておく必要があります。
このような緊急事態に対処するために、平常時に準備しておく計画をBCP(事業継続計画)と呼びます。
BCPは、大企業だけでなく、中小企業にとっても非常に重要です。しかし、実際には、中小企業の多くがBCPを策定していないか、十分に機能していないのが現状です。
BCPは、自然災害などの緊急事態が発生した場合に、事業を復旧するまでの手順や準備を整えることを指します。この点において、人命や財産を守るための「防災対策」とは内容が異なるため、注意が必要です。
そこで今回は、中小企業のBCP(事業継続計画)対策が必要な理由と具体事例を解説します。中小企業の経営者の方は、ぜひ参考にしてください。
中小企業におけるBCP(事業継続計画)とは?
策定率や必要な理由も解説
中小企業におけるBCP(事業継続計画)とは、自然災害や感染症などの非常事態に遭遇したときに、事業を継続させるための対策や計画のことです。
BCPの策定には、事業の中核となる部分を特定し、緊急時に提供できるサービスのレベルや目標復旧時間を定め、代替策や運用体制を整備しておく必要があります。
2022年に中小企業庁が発表した以下の資料では、BCPを策定する企業は毎年増加傾向にあるものの、まだ中小企業の策定率は2割に満たない状況です。
中小企業にとってBCPが必要な理由は次の4つの点であり、事業の安定と継続のために非常に重要な計画です。
それぞれ解説します。
1.事業の継続のため
BCPを策定しておくことで、非常事態が起きた場合でもスムーズに事業継続のために行動できます。これにより、事業の中断や廃業を防ぐことが可能です。
2.社会的信頼性の向上のため
BCPの策定は、顧客や取引先、社会からの信頼を高めることにもつながります。なぜなら、適切なBCPを公表することで、自社内外のステークホルダーに危機管理能力や企業価値をアピールできるからです。
3.従業員の安全確保のため
BCPでは、非常事態が起きたときに、従業員の安全確保をどのように行うかといった計画も重要視します。従業員の安全確保について「だれ」が「どのように」「どのような手段で」取りまとめるかは、人命にも関わる重要な対策です。
4.緊急事態時のビジネス機会損失の低減のため
BCPをあらかじめ定めることで、緊急時に優先すべき企業のビジネス活動やその復旧・再開手順が明確になります。
そのため、万一の災害時に、BCPに従い対応することで、ビジネス機会の損失を最小限に抑えることができます。
また、以下の表からも分かるように、ビジネス機会の損失以外にも、従業員の意識の向上や業務の効率化に良い影響が出ているといった声も聞かれます。
中小企業におけるBCPの策定方法
BCP策定の基本方針とポイント
中小企業がBCPを策定することは、従業員の安全確保や顧客からの信頼維持、地域社会への貢献などのさまざまなメリットがあります。
また、政府からはBCP認定制度や税制優遇措置などの支援を受けることも可能です。
BCP策定の基本方針としては、以下の4つの点に注意が必要です。
- 自社の経営方針や事業内容に合わせて、緊急時に優先的に提供すべき商品やサービスを重要商品として定めること
- 自社が想定する危機や被害状況を明確にし、それに対応できるだけの経営資源(人・金・物・情報)を確保すること
- 緊急時に責任者や代理責任者を決め、安否確認や連絡体制などを整備すること
- BCP策定後は社内で周知・訓練を行い、定期的に見直しや検証を行うこと
この4つの項目を中心にBCPを策定するのが効果的です。また、次の6つの手順とチェック項目に沿ってBCPを策定することで、さらに適切な計画を策定可能です。
BCP策定のステップ6つとチェックリスト
BCP策定は以下の6つのステップで進めると良いでしょう。
以下では、各ステップで行うべき内容をチェックリストとして示しますので、ぜひ参考にしてください。
1.BCP対策のプロジェクトチームを結成する
- BCP対策の責任者やメンバーを決める
- BCP対策の目的や期待効果を明確にする
- BCP対策のスケジュールや予算を決める
2.事業継続で優先すべきことを決定する
- 重要商品を選ぶ基準や方法を決める
- 重要商品ごとに必要な経営資源を把握する
- 重要商品ごとに復旧時間目標(RTO)や復旧点目標(RPO)を設定する
3.対策が求められるリスクを把握する
- 自社が想定する危機シナリオを列挙する
- 危機シナリオごとに発生確率や影響度を評価する
- 危機シナリオごとに重要商品への影響を分析する
4.復旧に向けた目標・プランを作成する
- 危機シナリオごとに復旧活動のフロー図や手順書を作成する
- 復旧活動に必要な人員や資材・設備・情報システムなどを確保する
- 復旧活動に関わる社内外の関係者と連携・協力体制を築く
5.作成したBCP対策の周知・訓練を行う
- BCP対策マニュアルや関連文書を社内で配布・公開する
- BCP対策に関する研修や説明会を定期的に実施する
- BCP対策の訓練やシミュレーションを定期的に実施する
6.策定したBCP対策の定期的な検証を行う
- BCP対策の有効性や問題点を検証する
- BCP対策の見直しや改善を行う
- BCP対策の更新や改定を行う
BCP策定のための支援制度
BCPの策定には、さまざまな支援制度が利用できます。そこで、以下に代表的なものを紹介します。
中小企業BCP策定運用指針
中小企業BCP策定運用指針とは、中小企業庁が作成したBCP策定のための指針です。
中小企業の特性や実状に基づいたBCPの策定及び継続的な運用の具体的方法がわかりやすく説明されています。
※詳しくは中小企業庁 中小企業BCP策定運用指針[外部サイト]をご確認ください
BCP認定制度
BCP認定制度とは、中小企業が策定した災害への事前対策に関する計画を、経済産業大臣が「事業継続力強化計画」として認定する制度です。
BCP認定事業者として登録されると、税制優遇措置や金融支援など措置を受けることができます。
※詳しくは中小企業庁 事業継続力強化計画[外部サイト]をご確認ください
上記以外にも、政府をはじめ、各都道府県、民間企業などがさまざまな支援制度を設けています。
中小企業におけるBCPの運用と改善のやり方
BCPの運用体制と役割分担
BCPの運用体制とは、災害や事故などの非常事態に対応するための組織や人員、業務、資源などの配置や連携を定めたものです。
BCPの運用体制を構築する際は、BCPの責任者やチームを明確にし、その権限や責務を定めることが重要です。
そして、BCPの実行に必要な人員や資源を確保し、その教育や訓練を行いましょう。
次に、BCPの実行に関する情報や指示を効率的に伝達するためのコミュニケーション手段を整備したうえで、BCPの実行に影響を与える外部の関係者(取引先、協力会社、行政機関など)との連携を図ることが重要です。
一方、BCPの役割分担とは、BCPの運用体制において、各部門や担当者が果たすべき役割や責任を明確にしたものです。
BCPの役割分担を決める際には、BCPの目的や方針、優先度を共有し、全員が同じ方向性を持つことが重要です。
そして、BCPの実行に必要な業務やタスクを洗い出し、それぞれに担当者や期限、成果物などを割り当てましょう。
次に、BCPの実行中に発生するであろう問題やリスクを予測し、それぞれに対処方法や責任者を設定したうえで、BCPの実行状況や成果物を定期的に報告し、フィードバックや改善策を提供することが重要です。
BCPの定期的な見直しと評価
BCPの定期的な見直しとは、BCPが常に最新かつ有効なものであることを確認するために行う活動です。
BCPの見直しは、災害や事故などの非常事態が発生した後や、組織や業務、環境などに変化があった場合、定期的な訓練や演習を行った後、定期的な監査や検証を行った後などのタイミングで実施するのがおすすめです。
一方、BCPの評価とは、BCPが目的や方針に沿って効果的かつ効率的に実行されているかどうかを判断するために行う活動です。
BCPの評価は、定量的な指標(復旧時間、復旧率、損失額など)を用いてBCPの成果やコスト効果を測定することや、定性的な指標(満足度、信頼度、安全性など)を用いてBCPの品質や満足度を評価します。
また、BCPの実行に関わった人員や関係者からフィードバックや意見を収集し、BCPの改善点や課題を把握することも大切です。
BCPの実効性を高めるための工夫
BCPの実効性とは、BCPが非常事態に対応する際に、組織や業務の継続性や回復力を高めることができるかどうかを示すものです。
BCPの実効性を高めるためには、以下のような工夫が必要です。
- BCPの策定や運用において、経営層や関係部門のコミットメントやサポートを得ること
- BCPの内容や手順を明確かつ簡潔に記述し、必要な人員や関係者に周知し、理解させること
- BCPの実行に必要な人員や資源を確保し、そのスキルや能力を向上させるために、定期的な教育や訓練を行うこと
- BCPの実行に必要な情報や指示を迅速かつ正確に伝達するために、多様なコミュニケーション手段を用意し、事前に確認すること
- BCPの実行に影響を与える外部の関係者との連携を強化するために、事前に協定や契約を結び、相互支援や協力体制を構築すること
上記のような内容を検証し、自社で「実行できるBCP」を策定することが重要です。
中小企業におけるBCPの事例紹介
自然災害に備えたBCP事例
自然災害に備えたBCPとは、地震や津波、台風や水害などの自然災害が発生した場合に、事業活動の継続や早期復旧を目指すために策定する計画です。
自然災害が起きると、施設や設備の損傷、原材料や製品の供給不足、人員の欠員や移動困難、通信や電力の断絶などのリスクが発生する可能性があります。
これらのリスクに対して、事前に想定される被害を分析し、対策を立てておくことが重要です。
自然災害に備えたBCPの具体事例(協業組合長崎市古紙リサイクル回収機構)
協業組合長崎市古紙リサイクル回収機構は、古紙回収・リサイクル事業を行う協同組合です。
同組合は、2019年10月に発生した台風19号で被災しましたが、非常時のニーズを踏まえた設備やシステム表、連絡体制を整備したBCPを策定していたことで、被害を最小限に抑えることができました。
同組合では、BCPに従い、台風接近前に古紙の保管場所や車両の移動などの予防措置を行い、台風通過後には施設や車両の点検や修理、顧客への情報提供などの復旧措置を行いました。
感染症対策としてのBCP事例
感染症対策としてのBCPとは、新型コロナウイルス感染症などの感染症が流行した場合に、事業活動の継続や復旧を目指すために策定する計画です。
感染症によって、従業員や顧客の感染拡大や健康被害、営業自粛や外出制限などの社会的制約、需要の減少や供給の不安定化などのリスクが発生する可能性があります。
これらのリスクに対して、事前に想定される影響を分析し、対策を立てておくことが重要です。
感染症対策としてのBCの具体事例(株式会社建設技術コンサルタンツ)
株式会社建設技術コンサルタンツは、建設業(総合建設コンサルタント業)を営む中小企業です。
同社では、新型コロナウイルス感染症に対応するためにBCPを策定し、従業員や顧客への健康管理や情報提供や、テレワークやオンライン会議などのICT活用などの対応内容をBCPに記載しています。
サイバー攻撃対策としてのBCP事例
サイバー攻撃対策としてのBCPとは、マルウェアやランサムウェアなどのサイバー攻撃が発生した場合に、事業活動の継続や復旧を目指すために策定する計画です。
サイバー攻撃によって、システムやデータの損傷、情報の漏洩、業務の停止などのリスクが発生する可能性があります。
これらのリスクに対して、事前に想定される影響を分析し、対策を立てておくことが重要です。
サイバー攻撃対策としてのBCPの具体事例(株式会社ユニクロ)
株式会社ユニクロでは、2023年2月にDDoS攻撃を受け、オンラインストアが一時的に利用できなくなる被害を受けました。
そこで同社は、自社のIT-BCPに基づいて、被害状況の把握や顧客への情報提供などを実施。また、システム復旧に向けて外部専門家と協力することで、約2時間後にはオンラインストアを復旧できました。
中小企業におけるBCP対策のまとめ
このように、BCPは中小企業にとって必須の経営戦略の1つとして定着し始めています。
このBCPは、いつ起こるか予測できない自然災害や感染症などの事前対策だけでなく、事後対応にも重きを置いているところが注目すべきポイントです。
BCPを策定し、自社の災害リスクへの対策案を準備することで、万一の災害時に会社と従業員のリスクを大きく低減できるでしょう。
ただ、BCPは常に更新し、実践することが大切です。
近年は、地震や台風など、一般企業に甚大な被害を及ぼす災害が目立っています。
そのため、企業が自社事業や従業員を守るために、独自の備えを行うことが重要です。
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いつ、どこで起こるか予測のできない自然災害に対し、企業と従業員を守るための手段として、ぜひ「クロスゼロ」をご活用ください。
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