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建設業界における設計DXのメリットとは?具体的な課題と解決法も解説

標準労務費とは?必要とされる理由や経営上の取り組みを詳しく解説

2025/07/29

土木

2024年の建設業法改正で、「標準労務費」が導入されました。
標準労務費は、今後の契約や見積りのあり方を大きく変えるため、多くの建設関連企業が対応を迫られています。

しかし、「具体的に何をすればよいのか」が分からず、戸惑いを感じている担当者も多いのではないでしょうか。
標準労務費を正しく理解していないと、知らないうちに法令違反のリスクを抱えたり、採用活動で不利になったりする可能性もあります。

この記事では、標準労務費の基本的な概要から、具体的な算出方法、企業として取るべき経営上の取り組みまでを詳しく解説します。

標準労務費の正確な意味や経営上取り組むポイントを知りたい方は、ぜひ参考にしてください。

標準労務費とは?

標準労務費とは、建設工事に従事する技術者の賃金水準を一定の基準で示した金額のことです。標準労務費は、令和6年の建設業法改正によって制度として新たに導入されました。

制度の目的は、労働者の賃金が不当に引き下げられる事態を防ぎ、処遇の改善を進めることにあります。

十分な労務費が確保されなければ、建設業界から人材が離れ、長期的な人材確保にも支障をきたす可能性があります。

標準労務費の金額は、以下の2要素を掛け合わせて算出します。

労務単価 作業員1人あたりに設定される基準単価
労務歩掛 工種ごとに必要な作業時間の目安

2つを掛け合わせることで、工種ごとの標準的な労務費が算定されます。
歩掛は、施工条件や作業の特性に応じて、実務に即した幅を持たせて設定される仕組みです。

現在では、公共工事だけではなく、民間工事への適用も広がりつつあります。
標準労務費は、業界全体の賃金是正と労務管理の安定化を支える制度といえるでしょう。

標準労務費が必要とされる理由

標準労務費は、建設業界が抱える構造的な課題を解決するために導入されました。
それは単に賃金の基準を示すだけではなく、建設業界の未来を支えるための重要な役割を担っています。

なぜ今、標準労務費という仕組みが必要とされているのでしょうか。
その背景には、主に3つの理由が存在します。

3つの理由を一つひとつ、詳しく解説していきます。

労務費を守るため

標準労務費が必要とされる理由の一つは、現場で働く技術者の給料を守るためです。
技術者が正当に受け取るべき人件費が、不当な価格競争によって削られないようにする狙いがあります。

建設業界では、仕事を受注するために厳しい価格競争が行われてきました。その影響で、工事費用を抑えるために人件費にしわ寄せがいくことがありました。
こうした状況では、働く人たちの生活が安定せず、工事の品質にも関わってきます。

そこで、国が標準労務費の具体的な基準を設けました。

  • 客観的な根拠として交渉時に提示できる
  • 契約内容に人件費の内訳を明記しやすくなる
  • 極端に安い金額での契約を防ぐ効果が期待できる

共通の物差しがあることで、人件費は一方的に切り下げられなくなります。

標準労務費は、技術者の賃金水準を確保し、誰もが安心して働ける環境を実現するための重要な制度です。

人材確保のため

標準労務費が必要とされる二つ目の理由は、人材を確保するためです。
特に若い世代にとって、建設業界が魅力的な進路のひとつとなるような環境づくりを目指しています。

現在の建設業界は、技術者の高齢化と深刻な人手不足という課題に直面しています。
「賃金が安定しない」といった印象が、業界全体のイメージを下げている一因でもありました。
このままでは、日本のものづくりを支える優れた技術の継承が危ぶまれる恐れがあります。

そこで標準労務費は、賃金に対する不安を払拭する役割を担います。

  • 安定した給与水準の目安を提示する
  • 経験や技術が正当に評価されることを示す
  • 将来のキャリアプランを立てやすくする

賃金に関する公正なルールがあれば、建設業は働きがいのある仕事だと伝えられます。

技術者への適正な処遇は、業界のイメージを向上させ、未来の人材を育てる土台となります。

共通基準を設けるため

標準労務費が必要とされる三つ目の理由は、労務費に関する公正な共通基準を設けるためです。
発注者と受注者の双方が納得できる、客観的な指標を整えることを目的としています。

これまで、労務費の算定には会社ごとに異なる曖昧な基準が用いられることもありました。
そのため、見積もりの妥当性を判断するのが難しく、契約交渉がスムーズに進まない一因となっていました。

認識のズレから、トラブルに発展するケースも少なくありません。

そこで標準労務費は、誰にとっても分かりやすい基準として機能します。

  • 労務費の金額に対する明確な根拠となる
  • 見積もりの透明性を高め、信頼性を向上させる
  • 契約内容に関する認識の齟齬を未然に防ぐ

共通基準があれば、労務費に関する話し合いが円滑に進むようになります。

事業者間の公正な取引環境を促し、業界全体の健全化につながるでしょう。

標準労務費の算出方法

標準労務費の金額は、国が定めた計算ルールに基づいて算出されます。
単一の固定額ではなく、いくつかの要素を組み合わせて決まる仕組みです。

算出方法は、主に以下の3つの段階に分けられます。

  • 設計労務単価を基準に日当の目安を決める
  • 歩掛り(ぶがかり)で作業ごとの手間を把握する
  • 地域や職種の実情に合わせて最終的な金額を調整する

ここではこれらの項目がどのように計算に関わるのかを詳しく解説します。

設計労務単価を基準に日当の目安を決める

標準労務費の計算は、まず「公共工事設計労務単価」という公的な基準額から始まります。
これは、国が毎年調査を行い発表する、技術者一人あたりの基本的な日当の目安です。

この単価は公共工事の費用を計算するために使われ、全国47都道府県・51職種別に金額が設定されています。
令和7年3月から適用される最新の単価では、全国全職種の加重平均値で日額24,852円となり、13年連続の上昇となりました。

単価は職種によって異なり、「主要12職種」の全国平均値は以下のとおりです。

蔵衛門クラウド
引用:国土交通省令和7年3月から適用する公共工事設計労務単価について

設計労務単価を理解する上で、特に注意すべき点が一つあります。
それは、この金額が「技術者が直接受け取るべき賃金」の目安であり、会社が負担する経費は含まれていない点です。

見積りや契約の際には、この単価に加えて法定福利費などの必要経費を別途計上する必要があります。

歩掛り(ぶがかり)で作業ごとの手間を把握する

労務費の計算には、次に「歩掛り(ぶがかり)」という指標が用いられます。
「歩掛り」とは、ある作業を1単位仕上げるために必要な作業手間を数値化したもので、「この作業には、これくらいの手間がかかる」という目安を示すものです。

公共工事設計労務単価が「一人一日あたりの給与水準」を示すのに対し、歩掛りは「一つの作業にかかる人数や日数」を表します。
例えば「10平方メートルの壁を塗るのに、職人が何人で何日かかるか」といった具合です。

標準労務費は、この2つの要素を掛け合わせることで、より実態に近い金額を算出します。

地域や職種の実情に合わせて最終的な金額を調整する

標準労務費は、最終的に地域や工事の特性に応じて補正されます。
全国一律の金額ではなく、現場の実情に合わせて柔軟に調整されるからです。

公共工事設計労務単価や歩掛りは、あくまで標準的な条件下での目安です。
しかし、実際の工事現場では、地域によって物価や賃金水準が異なります。また、特殊な環境下での作業や、標準的でない施工条件が求められるケースもあります。

それぞれの違いを無視しては、公正な労務費とはいえません。

そこで、実態に合わせるために以下のような補正が行われます。

地域差の補正 各都道府県の賃金実態を反映させる
現場条件の補正 高所作業や夜間作業などの特殊性を考慮する
工法による補正 標準的でない工法や材料を用いる場合に対応する

こうした補正を行うことで、画一的ではない、各工事の実情に即した適正な労務費が設定されます。

標準労務費への対応で求められる
経営上の3つの取り組み

標準労務費の導入は、建設業界のルールを大きく変えるものです。
これに対応するため、建設業を営む会社には、経営面での新たな取り組みが求められます。

この制度は、単に賃金計算の方法が変わるだけではありません。
処遇改善を前提とした契約のあり方や、適正な価格への転嫁交渉、そして働き方改革に沿った労務管理の徹底など、会社経営そのものを見直すきっかけとなるでしょう。

ここでは、具体的にどのような準備や対応が必要になるのかを確認していきましょう。

処遇改善を前提とした契約が求められる

標準労務費の導入は、契約の段階から技術者の処遇改善を前提とすることを求めています。
これからの契約には「工事の金額」だけではなく、「働く人の給料を守る」という意識が必要です。

この制度が目指すのは、技術者が安心して働ける環境の実現です。 そのためには、契約後に人件費が他のコストに流用される事態を防がなければなりません。

改正された建設業法では、元請企業に対して、労務費の内訳を明示した見積りを尊重するよう求めています。

具体的には、契約段階で以下のポイントを意識しましょう。

  • 見積書に労務費の内訳を明確に記載する
  • 発注者・元請はその見積りを尊重し契約を結ぶ
  • 契約書にも労務費に関する取り決めを盛り込む

最初の契約段階で労務費をきちんと確保する意識が、すべての関係者に求められます。

価格転嫁の交渉が制度として認められる

標準労務費の導入により、労務費や資材費の上昇分を価格に反映させるための交渉が、これまでより行いやすくなります。
制度が、これまで立場上言い出しにくかったコスト増加交渉の後ろ盾となるからです。

建設業界では、一度決まった契約金額を変更するのは簡単ではありませんでした。
しかし、予期せぬ物価高騰などが発生した場合、その負担は下請会社に重くのしかかります。これでは、適正な利益や賃金の確保は困難です。

今回の法改正では、価格転嫁に関するルールが明確化されました。

  • 労務費の上昇などを理由とした協議が求めやすくなる
  • 元請会社は下請からの協議の申し出を拒否できない
  • 標準労務費が交渉の際の客観的な根拠となる

上記ルールによって、下請会社はより対等な立場で価格交渉に臨めるようになります。

賃金や材料費などの変動分を請負代金に適切に反映させることは、公正な取引のためには必要な要素です。

働き方改革に沿った労務管理が求められる

標準労務費の確保と同時に、働き方改革に沿った適切な労務管理が求められます。
適正な賃金を受け取る以上、その働き方も公正でなければならないからです。

建設業界では、長時間労働の是正や休日の確保が大きな課題となっています。
2024年4月からは時間外労働の上限規制も適用され、法令遵守の重要性はこれまで以上に高まっています。

標準労務費を確保する目的の一つには、労働環境の改善に必要な原資を確保する意味合いも含まれています。

企業としては、以下の労務管理体制の徹底が必要です。

  • 労働時間や休日を正確に記録し管理する
  • 社会保険への加入を徹底し、法定福利費を支払う
  • 適正な工期設定を行い、無理な長時間労働を防ぐ

適切な労務費の確保と、健全な労働環境を整えることは、どちらも同じくらい重要です。
二つを両立させることで、深刻な人材不足の課題解消にもつながります。

まとめ

本記事では、標準労務費の概要から算出方法、企業に求められる取り組みまでを解説しました。
標準労務費は、技術者の処遇改善と人材確保に不可欠であり、その正しい理解と運用が大切です。

しかし、CCUS(建設キャリアアップシステム)と連携した正確な就業履歴の管理など、日々の実務は煩雑になりがちです。

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