建設業の粗利率の目安は?|計算方法や改善ポイントを解説
2025/08/08
建設業を営む多くの企業が、収益性の向上に課題を抱えています。
特に材料費の高騰や人手不足が深刻化する中で、適切な粗利率の確保は企業存続に直結する重要な要素となっています。
本記事では、建設業における粗利率の計算方法から業界平均値、さらには粗利率改善のための具体的な取り組みまで、経営層や総務・財務担当者が知っておくべき情報を網羅的に解説します。
原価管理の最適化から受注戦略の見直しまで、実践的なアプローチをご紹介しますので、自社の収益性向上にお役立てください。
建設業の粗利率とは?
基本的な仕組みを理解する
建設業における粗利率は、売上高に対する粗利益(売上高から工事に直接かかった原価を差し引いた金額)の割合を示す重要な経営指標です。 この指標は企業の収益性や競争力を測る基本的な尺度として、経営判断に欠かせない情報を提供します。
建設業の粗利率が他業界と異なる特徴として、工事案件ごとに原価構造が大きく変動することが挙げられます。
住宅建設、土木工事、リフォーム工事など、工事の種類によって材料費や人件費の比率が変わるため、単一の粗利率目標を設定するのではなく、工事種別ごとに適切な目標値を設定することが重要です。
また、建設業では受注から完成まで長期間を要する案件が多いため、工事進行中の原価変動リスクも粗利率に大きく影響します。
材料価格の変動や人件費の上昇、工期延長による追加コストなど、様々な要因が最終的な粗利率を左右するため、継続的な管理と調整が不可欠となります。
建設業の粗利率を正しく理解し管理することで、企業は適切な価格設定、効率的な原価管理、そして持続可能な収益構造の構築を実現できます。
建設業の粗利率計算方法と
具体的な数値例
建設業の粗利率を正確に算出するためには、まず基本的な計算式を理解し、工事原価の適切な分類方法を把握することが重要です。
ここでは実際の数値例を用いながら、建設業特有の粗利率計算方法を詳しく解説します。
粗利率の基本計算式
建設業における粗利率の計算式は以下の通りです。
粗利益は売上高から工事原価を差し引いた金額で、これが企業の基本的な収益力を示します。
| 計算項目 | 計算式 |
|---|---|
| 粗利益 | 売上高 - 工事原価 |
| 粗利率 | (粗利益 ÷ 売上高)× 100 |
この計算式は単純に見えますが、建設業では工事原価の範囲を正確に定義することが重要なポイントとなります。
工事原価に含める項目の判断が粗利率の精度を大きく左右するため、統一的な基準を設けることが必要です。
建設業における工事原価の内訳
建設業の工事原価は主に以下の4つの要素で構成されます。
これらの項目を正確に把握し分類することで、適切な粗利率計算が可能になります。
- 材料費:セメント、鉄筋、木材、設備機器など工事に直接使用する材料の費用
- 労務費:作業員の賃金、社会保険料、福利厚生費など人件費関連の費用
- 外注費:下請業者への支払い、専門工事業者への委託費用
- 経費:現場管理費、機械器具費、運搬費、仮設工事費など工事遂行に必要な諸経費
これらの原価項目の中でも、特に外注費の取り扱いには注意が必要です。
外注先が提供するサービスの内容によって、材料費に相当する部分と労務費に相当する部分を適切に分離して管理することで、より正確な原価分析が可能になります。
粗利率計算の具体例
実際の住宅建設プロジェクトを例に、粗利率の計算方法を具体的に示します。
この例では、総額3,000万円の新築住宅工事における粗利率を算出します。
| 項目 | 金額(万円) |
|---|---|
| 売上高 | 3,000 |
| 材料費 | 1,200 |
| 労務費 | 600 |
| 外注費 | 500 |
| 現場経費 | 100 |
| 工事原価計 | 2,400 |
| 粗利益 | 600 |
| 粗利率 | 20.0% |
この例では、粗利益が600万円、粗利率が20.0%となります。
建設業界の平均的な粗利率である約22%と比較すると、やや低い水準であり、原価管理の見直しや価格設定の調整が必要かもしれません。
実際の計算では、工事進行中の原価変動や追加工事の発生なども考慮する必要があります。
そのため、定期的な実績確認と予算との比較分析を行い、プロジェクト完了時の最終的な粗利率を正確に把握することが重要です。
建設業の粗利率の目安と業界平均
建設業の粗利率を適切に評価するためには、業界全体の水準や自社の規模・業態に応じた目安を把握することが重要です。
ここでは公的データと業界調査に基づいて、建設業の粗利率の実態と目安について詳しく解説します。
中小企業庁データから見る建設業の粗利率
中小企業庁が発表した令和4年度の調査データによると、建設業の売上高総利益率(粗利率)の平均は約22%となっています。
この数値はサービス業や農林水産業と比較すると決して高い水準ではありませんが、建設業特有の事業構造を考慮すると妥当な範囲と言えます。
業界 平均粗利率 建設業 約22% 製造業 約21% 農林水産業 約25% サービス業 約50%
ただし、この平均値には様々な規模や業態の企業が含まれているため、自社の事業規模や主要な工事種別に応じて、より詳細な分析を行うことが重要です。
特に中小企業の場合、大手企業とは異なる課題や特徴があるため、同規模企業との比較が有効です。
工事規模別・業態別の粗利率目安
建設業の粗利率は工事の規模や業態によって大きく異なります。
以下に主要な業態別の粗利率目安を示します。
これらの数値は業界調査や企業の決算資料から算出した参考値です。
| 業態・工事種別 | 粗利率目安 |
|---|---|
| 住宅建設 | 20-25% |
| 土木工事 | 20-25% |
| リフォーム工事 | 30-40% |
| 設備工事 | 25-30% |
| 大規模建築工事 | 10-15% |
リフォーム工事は比較的高い粗利率を確保できる傾向にありますが、これは小規模で付加価値の高いサービスが提供できるためです。
一方、大規模建築工事や土木工事は競争が激しく、スケールメリットを活かした効率的な施工が求められるため、粗利率は低めになる傾向があります。
他業界との粗利率比較
建設業の粗利率を他業界と比較することで、業界特有の収益構造をより深く理解できます。
建設業は労働集約的な業界でありながら、原材料費の占める割合も高いという特徴があります。
建設業の粗利率が他業界と比較して比較的低い水準にある理由は、高い技術力と専門性が要求される一方で、価格競争が激しく、原材料コストの変動リスクも大きいためです。
この状況を改善するためには、差別化戦略と効率的な原価管理が不可欠です。
業界平均を上回る粗利率を維持している企業の多くは、独自の技術力や品質管理体制、顧客との長期的な関係構築などの競争優位性を持っています。
これらの要素を自社に取り入れることで、粗利率の改善が期待できます。
建設業の粗利率が低くなる主な要因
建設業の粗利率低下には様々な要因が複合的に影響しています。
これらの要因を正確に把握し、適切な対策を講じることが収益性改善の第一歩となります。
ここでは建設業特有の課題を4つの観点から詳しく分析します。
材料費・人件費の高騰による原価圧迫
近年、建設業界では原材料価格の急激な上昇が深刻な問題となっています。
新型コロナウイルス感染症の影響による供給網の混乱、ウクライナ情勢による資源価格の高騰、円安の進行などが重なり、鉄筋、セメント、木材などの主要材料の価格が大幅に上昇しています。
人件費についても同様の圧迫要因があります。
建設業界の深刻な人手不足により、作業員の賃金水準は継続的に上昇しており、特に熟練技能者の確保には従来以上の人件費が必要となっています。
働き方改革関連法の施行により、残業時間の上限規制や有給休暇の取得義務化なども人件費増加の要因となっています。
これらの原価上昇に対して、受注価格への転嫁が十分にできていない企業では、粗利率の大幅な低下が避けられません。
材料費の変動リスクを織り込んだ契約条件の設定や、定期的な価格見直しの仕組みづくりが重要となります。
価格競争激化と受注環境の悪化
建設業界では長年にわたって激しい価格競争が続いており、これが粗利率を圧迫する主要因の一つとなっています。
特に公共工事においては最低価格落札方式が一般的であり、利益を削ってでも受注を確保しようとする企業間の競争が激化しています。
民間工事においても、発注者のコスト削減圧力は強く、複数の建設会社に見積もりを依頼し、最も安い価格を提示した会社に発注するケースが多くなっています。
この結果、適正な利益を確保できる価格での受注が困難になり、粗利率の低下につながっています。
さらに、受注競争の激化により、無理な工期設定や追加費用の発生リスクを十分に考慮しない受注も増加しており、当初予想していた粗利率を確保できないケースも頻発しています。
原価管理体制の不備
多くの中小建設会社では、原価管理体制が十分に整備されていないことが粗利率低下の重要な要因となっています。
工事進行中のリアルタイムな原価把握ができていないため、予算超過や無駄な支出に気づくのが遅れ、結果的に粗利率を悪化させています。
特に以下のような管理不備が問題となっています。
- 実行予算の作成が不十分で、材料費や労務費の詳細な積算ができていない
- 発注・入出金管理が曖昧で、実際の支出額を正確に把握できていない
- 小規模事業者では資金管理体制が脆弱で、キャッシュフローの悪化が利益を圧迫している
適切な原価管理システムの導入と運用により、これらの問題を解決し、粗利率の改善を図ることが可能です。
工事別・工程別の詳細な原価分析を行うことで、収益性の高い工事の特徴を把握し、今後の受注戦略に活かすことができます。
工期遅延や追加コストの発生
建設工事では様々な要因により工期遅延が発生し、これが粗利率悪化の大きな要因となっています。
天候不順による作業停止、地中障害物の発見、設計変更、資材調達の遅れなど、予期しない事態により工期が延長されると、追加の人件費や機械リース費用が発生します。
また、施主からの仕様変更や追加工事の要請に対して、適切な追加料金を設定できていない場合も粗利率を圧迫します。
変更工事の原価を正確に算出し、適正な価格で合意を得る体制が整っていないと、実質的に無償で追加作業を行うことになってしまいます。
これらのリスクを軽減するためには、契約段階での条件設定の明確化、定期的な工程管理とリスク評価、そして変更工事に対する迅速かつ適切な対応体制の構築が重要です。
建設業の粗利率改善のための
具体的な取り組み
粗利率の改善には、収入面と支出面の両方からのアプローチが必要です。
ここでは建設業の収益性向上に効果的な4つの重要な取り組みについて、具体的な実施方法と期待できる効果を詳しく解説します。
適正価格での受注戦略
粗利率改善の最も直接的な方法は、適正な価格での受注を実現することです。
これには市場相場の正確な把握と、自社の競争優位性を活かした価格設定戦略が不可欠となります。
まず重要なのは、工事種別ごとの詳細な原価分析を行い、最低限確保すべき粗利率を明確に設定することです。
材料費、労務費、管理費、そして適正利益を含めた見積もり基準を確立し、この基準を下回る案件は原則として受注しない方針を徹底することが重要です。
また、単純な価格競争から脱却するため、技術力や品質、アフターサービスなどの付加価値を顧客に明確に伝える営業戦略も必要です。
過去の実績や顧客満足度、独自の工法や技術などを活用して、価格以外の競争軸を構築することで、適正価格での受注が可能になります。
徹底的な原価管理の実施
原価管理の徹底は粗利率改善の基盤となる重要な取り組みです。
工事開始前の実行予算作成から、施工中の進捗管理、完了後の実績分析まで、一貫した原価管理体制を構築することが必要です。
具体的には以下の管理項目を詳細に把握し、定期的にチェックすることが重要です。
材料費については、発注量と使用量の差異分析、廃材の削減、まとめ発注による単価削減などを実施します。
労務費については、作業効率の向上、適正な人員配置、残業時間の管理などを行います。
特に重要なのは、工事進行中のリアルタイムな原価把握です。月次または週次で実際の支出と予算を比較し、差異が発生した場合は速やかに原因を分析し、必要な対策を講じることで、最終的な粗利率の悪化を防ぐことができます。
付加価値向上による差別化
価格競争に巻き込まれることなく高い粗利率を維持するためには、自社独自の付加価値を創出し、顧客に提供することが重要です。
技術面、サービス面、品質面での差別化により、競合他社との違いを明確にする必要があります。
技術面での差別化として、省エネ技術や環境配慮型の工法の導入、最新のICT技術を活用した施工管理、独自の設計・施工ノウハウの開発などが効果的です。
これらの技術により、顧客にとってのメリットを具体的に示すことで、価格プレミアムを獲得できます。
サービス面では、充実したアフターサポート体制、迅速な対応力、柔軟な変更対応などが差別化要因となります。
また、品質管理体制の強化により、手戻り工事の削減と顧客満足度の向上を同時に実現し、結果として粗利率の改善につなげることができます。
ITツール活用による業務効率化
建設業においてもデジタル化の波は確実に到来しており、ITツールの効果的な活用により業務効率化と原価削減を実現できます。
特に管理業務の自動化や情報共有の効率化により、間接費の削減と生産性向上が期待できます。
具体的な活用分野として、工程管理システムによる進捗の可視化と効率的なスケジューリング、原価管理システムによるリアルタイムな収支把握、そして図面や資料の電子化による情報共有の効率化などがあります。
また、BIM(Building Information Modeling)やドローンを活用した測量・検査、AI技術を活用した需要予測や最適化なども、今後の建設業界での競争優位性確保に重要な要素となります。
これらの技術投資により、中長期的な粗利率改善を実現することが可能です。
粗利率改善に役立つ
管理システムの活用
建設業の粗利率改善において、適切な管理システムの導入と活用は極めて重要な要素です。
従来の手作業やExcelベースの管理から脱却し、専門的な管理システムを導入することで、より精密で効率的な原価管理と収益分析が可能になります。
原価管理システムの導入メリット
建設業向けの原価管理システムを導入することで、従来の管理方法では困難だった詳細な分析と効率的な管理が実現できます。
システム導入により期待できる主要なメリットを以下に示します。
最も重要なメリットは、工事案件ごとの詳細な原価把握がリアルタイムで可能になることです。これにより、材料費、労務費、外注費、経費のそれぞれについて、予算と実績の対比分析を継続的に行えるため、問題の早期発見と迅速な対策実施が可能になります。
また、過去の工事データの蓄積と分析により、工事種別ごとの原価傾向や収益性の特徴を把握できるため、今後の見積もり精度向上と受注戦略の最適化に活用できます。
さらに、手作業による計算ミスや転記ミスの削減により、管理の精度と効率性が大幅に向上します。
リアルタイムでの収益性把握
管理システムの活用により、工事進行中でも現時点での収益状況をリアルタイムで把握できるようになります。
この機能は粗利率改善において極めて重要な役割を果たします。
工事開始時に設定した予算に対して、実際の原価がどの程度で推移しているかを継続的に監視することで、最終的な粗利率の予測精度が向上します。
予算超過の兆候が見られる場合は、工程の見直しや原価削減策の実施により、粗利率の悪化を防ぐことができます。
また、複数の工事案件を同時に管理している場合でも、各案件の収益状況を一元的に把握できるため、会社全体の収益性向上に向けた戦略的な意思決定が可能になります。
収益性の高い案件の特徴を分析し、類似案件の受注を増やすなどの戦略的アプローチも実現できます。
データ分析による改善点の特定
管理システムに蓄積されたデータを活用した分析により、粗利率改善のための具体的な改善点を特定できます。
データに基づいた客観的な分析により、感覚的な判断では見落としがちな問題点を発見することが可能です。
例えば、材料費の分析では、どの材料で予算超過が頻発しているか、どの業者からの調達で単価が高くなっているかなどを詳細に把握できます。
労務費の分析では、どの作業工程で効率が悪いか、どの職種で単価が高くなっているかなどを分析できます。
これらの分析結果を基に、調達先の見直し、作業方法の改善、職人のスキル向上など、具体的な改善策を立案・実施することで、継続的な粗利率改善を実現できます。
また、改善施策の効果をデータで検証することで、さらなる改善の方向性を見出すことも可能になります。
まとめ
建設業における粗利率は、企業の収益性と持続可能性を測る重要な指標です。
業界平均の約22%を目安としながらも、工事種別や企業規模に応じた適切な目標設定が必要となります。
粗利率改善のためには、適正価格での受注戦略、徹底的な原価管理、付加価値向上による差別化、そしてITツール活用による業務効率化の4つの取り組みを総合的に実施することが重要です。
特に原価管理システムの導入により、リアルタイムでの収益性把握と継続的な改善活動が可能になります。
建設業界を取り巻く環境は厳しさを増していますが、適切な管理体制の構築と戦略的な取り組みにより、持続可能な収益性の確保は十分に可能です。
自社の現状を正確に把握し、計画的な改善活動を継続することで、競争力のある粗利率の実現を目指しましょう。
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