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外国人就労者の定着支援研修とは?よくある課題と実施のポイントを解説

外国人就労者の定着支援研修とは?よくある課題と実施のポイントを解説

2025/07/14

土木

外国人就労のための定着支援研修は、外国人材の早期離職を防ぎ、日本企業への長期定着を支援するために設けられた公的制度です。

日本語や労働法、職場文化など、安定した就労に必要な知識・スキルを体系的に学べる内容となっており、受け入れ企業の人材確保にも直結します。

本記事では、研修制度の概要、対象者や実施形式、実際の研修カリキュラムに加え、建設業における外国人労働者の定着課題とその解決策まで詳しく解説します。

制度を正しく理解し、自社の定着支援施策に効果的に活用するための参考にしてください。

外国人就労の定着支援研修とは

外国人就労の定着支援研修は、日本で安定して働き続けるために必要な知識やスキルを学べる公的支援制度です。

就職意欲がある外国人を対象に、日本語能力や職場文化、社会保険制度などを学ぶことで、早期離職やトラブルの防止、職場への定着の促進のために設けられました。

まずは、外国人就労の定着支援研修の概要をそれぞれ確認していきましょう。

制度の概要と研修の目的

外国人就労の定着支援研修は、厚生労働省が推進する外国人雇用対策の一環として設けられた制度です。

日本で働く外国人材の職場定着率向上と、受け入れ企業の人材確保の両方を実現するための支援策として位置づけられています。

この制度が設けられた背景には、外国人労働者の高い離職率があり、外国人材と日本企業の双方にとってメリットのある雇用関係を築くことがこの制度の主な目的です。

定着支援研修では、以下の内容を体系的に学習できます。

  • 日本語での基本的なコミュニケーション
  • 職場でのマナーと規則
  • 社会保険制度の仕組み
  • 日本の労働法に関する基礎知識
  • 生活に必要な手続き

研修を通じて、外国人労働者は日本の職場環境に適応しやすくなり、企業側も安定した人材確保が可能になります。

研修対象者と実施形式

外国人就労・定着支援研修の対象者は、身分に基づく在留資格を持つ定住外国人が中心となります。

具体的には「永住者」「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」「定住者」の在留資格を有する方々です。
対象となる方の条件は、就職への意欲が高いにもかかわらず、日本の職場文化や雇用慣行への理解が不十分なため、安定した雇用に就くことが困難な状況にあることです。

現在未就業の方だけではなく、より安定した就労への移行を目指す就業中の方も研修を受けることができます。

研修は日本語レベルに応じて3つのコースに分かれており、それぞれ100時間の学習時間が設定されています。

レベル1 日本語初心者、ひらがな・カタカナが苦手な方
レベル2 基本的な読み書きができ、簡単な会話が可能な方
レベル3 漢字の読み書きができ、ある程度会話ができる方
スクロールできます

実施形式は対面型とオンライン型の2種類があり、受講者のニーズや地域の実情に合わせて選択できます。

対面型は全国26都府県で実施されており、日中や夜間など時間帯も柔軟に設定されているため、働きながらでも受講しやすい環境が整っています。

カリキュラム内容と実施時間の目安

定着支援研修のカリキュラムは、安定した就労に直結する実践的な内容で構成されています。

各コース100時間の研修時間の中で、日本語学習と就労支援の両方をバランスよく学べる仕組みになっています。

カリキュラムの柱となるのは、職場でのコミュニケーション能力向上です。
単なる日本語学習ではなく、実際の就労場面で使える会話や読み書きスキルの習得に重点を置いています。
求人票の読み方や応募書類の作成、面接対策まで含む包括的な就職活動支援も行われます。

具体的な研修内容は、以下のとおりです。

職場見学 実際の働く環境を体験
就労講義 日本の職場習慣や労働法の基礎知識
ハローワーク訪問 求職登録と利用方法の習得
スクロールできます

100時間の研修時間は、週2〜3回の受講であれば約3〜4ヶ月で修了できる設計です。

日中コースと夜間コースが用意されており、生活スタイルに合わせて無理なく学習を継続できます。
カリキュラムの特徴は、レベル別に段階的な学習ができる点です。

初心者から上級者まで、それぞれの日本語能力に応じた適切な内容で、確実なスキルアップを図れるでしょう。

外国人材が必要とされる背景

日本では少子高齢化による労働力不足が深刻化しており、外国人材への依存度が急速に高まっています。

生産年齢人口の減少により、多くの業界で人手不足が常態化しているからです。

総務省の人口推計(2025年1月1日現在)によると、日本の15~64歳人口は7,361万2千人で、前年同月に比べ23万3千人減少しています。

一方で、外国人人口は340万2千人と前年同月に比べ31万1千人増加(10.06%増)しており、労働力確保における外国人材の重要性が数値からも明らかです。

日本の総人口の推移のグラフ。2014年から2024年にかけて減少している。
引用:総務省「人口推計-2025年(令和7年)5月報-」

製造業、建設業、介護・福祉、飲食・宿泊業など幅広い分野で労働力不足が顕在化しており、外国人労働者は事業継続に欠かせない存在となっています。

単なる補完的な役割ではなく、事業運営の中核を担う人材として期待されているのが実情です。

ここでは、建設業で外国人材が必要とされる主な背景を確認していきましょう。

人手不足に伴う外国人雇用の加速

建設業界をはじめとする各産業で、深刻な人手不足を背景とした外国人雇用が急速に拡大しています。
労働力の絶対的な不足により、企業が外国人材の活用を積極的に進めているからです。

建設業界の状況を見ると、人手不足の深刻さが明確に表れています。
国土交通省のデータによると、建設業就業者数は令和4年平均で479万人となっており、ピーク時(平成9年平均)から約30%も減少しています。

一方で建設投資額は令和4年度に約67兆円と回復傾向にあり、需要と労働力供給のミスマッチが拡大している状況です。

建設投資、許可業者数及び就業者数の推移のグラフ
引用:国土交通省「建設業を巡る現状と課題」

労働力不足を補うため、多くの企業が外国人材の雇用に注力しています。

技能実習制度や特定技能制度を活用した外国人労働者の受け入れが進んでおり、製造業、建設業、介護分野などで外国人労働者数が年々増加しています。

企業にとって外国人材は、単なる人手不足の穴埋めではなく、事業継続と成長のために不可欠な戦力となっていると言えるでしょう。

しかし、雇用するだけでは十分ではなく、長期的な定着に向けた支援体制の構築が新たな経営課題として浮上しています。

高い離職率と定着困難の実情

外国人労働者の定着が困難な背景には、日本の労働現場における高い離職率などの構造的な問題があります。

特に建設業界では、日本人労働者でも離職率が高く、外国人材にとってはより厳しい環境となっているのが現状です。

国土交通省のデータが示す建設業界の実情は深刻です。
令和4年度の建設業への入職者は約22万人ですが、平成14年度と比較すると約60%も減少しています。
さらに新卒入職者の3年目までの離職率は、大卒者で約3割、高卒者で約4割~5割と高水準で推移しています。

建設業への入職者の動向を表したグラフ
引用:国土交通省「建設業(技術者制度)をとりまく現状」

建設業の離職率は他業界と比較しても際立って高く、製造業と比べると高卒者で約15%、大卒者で約10%も上回っています(令和2年度)。

日本人労働者でさえ定着が困難な環境では、言語や文化の壁を抱える外国人材の定着はより一層困難になると予想できます。

このような状況下では、外国人材を受け入れても早期離職につながりやすく、企業の投資対効果も期待できません。

人手不足解消のために外国人雇用を進める企業にとって、定着支援は避けて通れない課題の一つとなっています。

建設業における
外国人定着の課題

建設現場では安全管理が最優先される一方で、専門的な作業指示や緊急時の対応が日本語で行われることが多く、外国人労働者にとって理解が困難な状況が生まれています。

日本独特の職場文化や人間関係の構築方法も、外国人材には馴染みにくい要素となっています。

建設業界における外国人定着の主な課題は、以下のとおりです。

それぞれの課題は単独で発生するものではなく、相互に影響し合いながら外国人労働者の職場適応を困難にしています。

ここではそれぞれの課題を詳しく見ていきましょう。

現場での安全・作業指示が伝わらない

建設現場において外国人労働者への安全・作業指示が適切に伝わらないことは、深刻な問題です。
言語の壁により専門用語や緊急時の指示が理解されず、安全確保に支障をきたすケースが多発しています。

問題が発生する主な要因は、指示方法の不備と現場環境の複雑さにあります。
建設現場では専門的な技術用語が多用され、日本語が不十分な外国人労働者には理解が困難です。

効果的な解決策として、以下のような取り組みが効果的です。

  • 視覚的な補助ツール(図解、ピクトグラム)の活用
  • 多言語対応の安全マニュアル作成
  • 定期的な安全教育と理解度確認の実施
  • 現場での安全パトロール強化

指示が伝わらない問題は、単なる言語の問題ではなく、企業の安全管理体制そのものに関わる課題です。

外国人労働者が安心して働ける環境を整備すれば、現場全体の安全性向上と生産性の向上を同時に実現できるでしょう。

生活習慣・宗教への理解不足

外国人労働者の定着を阻む大きな要因の一つが、職場における生活習慣や宗教的配慮への理解不足です。

文化的背景の違いを軽視すれば、外国人労働者が疎外感を抱き、職場への適応が困難になるケースも少なくありません。

宗教的な配慮が必要な場面は日常業務の中で頻繁に発生します。
例えば、イスラム教徒の労働者には以下のような配慮が求められます。

  • 一日に数回の礼拝時間の確保
  • ラマダン期間中の日中断食への理解
  • 豚や酒類の摂取制限への食事配慮

コミュニケーションスタイルの違いも見過ごせない課題です。
直接的な表現を好む文化出身者もいれば、間接的で遠回しな表現を重視する文化出身者もいます。

日本人が当然と考える「察する文化」が通じず、指示や期待が正確に伝わらない場面も生じます。

これらの問題を解決するための効果的な取り組みは、以下のとおりです。

  • 多文化理解のための研修実施
  • 外国人労働者の出身国に関する基礎知識の共有
  • 定期的な交流イベントの開催

企業側の積極的な理解と配慮により、外国人労働者が安心して働ける環境を整備すれば、長期的な定着につながるでしょう。

キャリアパスが不明確でモチベーション低下

建設業界で働く外国人労働者の多くが、将来のキャリア展望が見えないことに不安を抱いています。
明確な昇進ルートや成長目標が示されないため、長期的な就労への意欲が削がれ、早期離職につながるケースが頻発しているのが実情です。

外国人労働者のキャリアパスは、就労資格の種類によって大きく制約されます。
技能実習から特定技能への移行、建設キャリアアップシステム(CCUS)への登録など、複雑な制度が多いのも離職につながる要因の一つです。

モチベーション低下を招く主な要因には、以下のようなものが挙げられます。

  • 技能評価や昇格基準の不透明さ
  • 日本人労働者との処遇格差
  • 言語教育や技能向上支援の不足
  • 長期就労への道筋が見えない制度的制約

建設キャリアアップシステム(CCUS)は技能経歴を客観的に評価する仕組みですが、外国人労働者への説明や活用が不十分な企業も多く見られます。

技能向上が適正な処遇に反映される透明性の高いキャリアパス設計が、外国人材の定着とモチベーション維持には不可欠です。

日本人社員との関係構築が進まない

外国人労働者と日本人社員との関係構築が進まないことは、チームワークの悪化や作業効率の低下を招く深刻な問題です。

言語の壁に加え、異文化への理解不足や既存の職場慣行が、良好な人間関係の形成を阻んでいます。

関係構築が困難になる主な要因は、コミュニケーション不足と相互理解の欠如です。
外国人労働者の日本語能力が限られている一方で、日本人社員も外国人とのコミュニケーション方法を理解していないケースが多く見られます。建設業界特有の先輩後輩関係や暗黙のルールが、外国人労働者には理解しにくい要素にもつながっています。

効果的な関係構築には以下のような取り組みが有効です。

  • 外国人社員への日本語教育機会の提供
  • 日本人社員への異文化理解研修の実施
  • 宗教的配慮や働き方ルールの明確化
  • チャットツールや翻訳アプリの活用

日本人社員に対して外国人労働者雇用の意義を理解してもらい、外国人社員のスキルや経験を正当に評価する環境づくりも大切です。

相互理解を深める機会を意図的に創出できれば、国籍を超えた協力的な職場環境を実現できます。

外国人就労・定着支援研修を
実効性ある施策にするための
ポイント

外国人就労・定着支援研修の効果を最大化するには、研修実施後の継続的な支援体制の構築が必要です。

研修を一過性のイベントで終わらせず、実際の職場での定着につなげるための具体的な取り組みが求められています。

実効性のある定着支援研修を実現するための主なポイントは、以下のとおりです。

それぞれのポイントを確認していきましょう。

フォロー体制を整える

定着支援研修を実効性ある施策にするには、研修後の職場定着を見据えたフォロー体制の整備が必要です。

研修で基本的な知識やスキルを身につけたとしても、実際の業務では戸惑いや課題が生じるケースが少なくありません。

研修と現場をつなぐ「橋渡し」となる体制がないと、せっかくの研修が現場で活かされず、早期離職にもつながります。

効果的なフォロー体制には、以下のようなものが挙げられます。

  • 現場配属後の定期面談(1ヶ月・3ヶ月・6ヶ月)
  • 業務中の疑問点をすぐに相談できるメンター制度
  • 日本語が苦手な労働者向けの相談窓口(多言語対応)
  • 現場責任者への外国人対応マニュアルの配布

研修を単発の取り組みに終わらせず、継続的にサポートの仕組みを導入すれば、職場へのスムーズな定着と長期就労の実現につながります。

研修内容と業務マニュアルの連動を意識する

定着支援研修を職場実務に活かすには、研修で学んだ内容と実際の業務マニュアルを連動させる工夫が必要です。研修で得た知識も、現場の実務と大きくかけ離れていれば、活用されずに形骸化してしまうからです。

現場で求められる具体的な作業や対応手順が、研修と整合していないと、混乱やストレスを生み、定着を妨げる要因となります。

例えば、以下のような取り組みが有効です。

  • 業務マニュアルに研修と同様の表現・図解を使う
  • 実際の業務フローを基に、研修教材をカスタマイズする
  • 研修修了者が配属される部署に、簡易チェックリストを導入する
  • 日本語の言い回しに加え、ピクトグラムや写真を併用した視覚的説明を盛り込む

研修とマニュアルの内容を整合させることで、外国人労働者は「学んだことがそのまま現場で活きる」と実感でき、混乱や戸惑いを減らし、職場への適応をスムーズに進めることができます。

生活・文化面の支援も研修内容に合わせて実施する

外国人就労者の定着を支援するには、業務スキルだけではなく、生活や文化面の支援も大切です。
仕事上の知識や技術を学んでも、日常生活での不安や文化の違いに戸惑いがあると、職場でのパフォーマンスや定着に悪影響を及ぼしてしまうからです。

特に日本特有の生活習慣やルールに慣れないままでは、ストレスや孤立を感じやすく、早期離職のリスクが高まります。

具体的には、以下のような支援が効果的です。

  • 交通ルールやごみ分別など、日本の生活マナーに関する情報提供
  • 年金・健康保険・税金など公的制度の基礎説明
  • 住居探しや銀行口座開設など、生活インフラ整備の支援
  • 宗教・食文化に配慮した就労環境の整備
  • 地域コミュニティや外国人支援団体との連携による生活サポート

生活面も含めた包括的な支援を行うことで、外国人労働者は「日本で安心して暮らせる」と実感を得られ、職場への信頼感と長期的な就労意欲が高まります。

定着支援を加速させる
オンライン日本語教育の活用

外国人材の定着には、研修で学んだ知識を継続し、現場で使える日本語能力へと引き上げることが必要です。

しかし、集合研修だけでは、個々のレベルや進捗に合わせた細やかなフォローが難しい課題もあります。

こうした課題を解決し、定着支援研修を効率化する手段として、オンライン日本語教育サービスの活用が有効です。

例えば、建設業に特化したオンライン日本語教育「KENTEM Global Academy」では、現場実務に直結する以下のようなプログラムを学習できます。

安全教育・施工方法の学習
  • 現場管理の経験者が監修した動画コンテンツ
  • 現場入場前に必須となる安全知識の習得
土木専門用語の学習支援
  • 建設現場で頻出する独特な専門用語を分かりやすく解説
  • イラストや写真を用いた視覚的な学習サポート
電子小黒板アプリ「SiteBox」の
操作習得
  • 現場ニーズの高いアプリを使った工事写真の撮影方法
  • 実践的な操作を動画で見て学べるコンテンツ

定着支援研修と並行して、あるいは研修後のフォローとしてこのようなオンライン教育を導入すれば「学び」と「実践」が繋がり、外国人材の職場定着とスキルアップにつながるでしょう。

オンライン日本語教育サービスに興味がある方は、「KENTEM Global Academy」の特設サイトをご確認ください。

KENTEM Global Academyの特設サイトを確認する

まとめ

建設業界では、深刻化する人材不足を背景に、外国人材の活用が事業継続のためには必要です。
そのための有効な施策が、公的な「外国人就労・定着支援研修」の活用です。

しかし、本記事で見てきた通り、一度の研修だけでは、現場で必要な高度な日本語や専門知識を完全に定着させるのは簡単ではありません。

そこで大切なのが、研修の効果を補い、継続的な学びをサポートするツールの活用です。

特に、建設現場の専門用語や安全教育に特化したオンライン教育は、外国人材が業務内容を深く理解し、安心して働き続けるためのサポートの役割を果たします。

建設業界に特化したオンライン日本語教育「KENTEM Global Academy」は、2025年10月初旬にリリースが予定されています。

今後、外国人材の受け入れと定着支援は、建設業の人材確保のためにも必要です。
今のうちから情報収集を進め、万全の受け入れ体制を準備しておくためにも、ぜひ特設サイトをご確認ください。