建設業界のDXとは|課題・進まない理由・具体的な事例をわかりやすく整理
2025/07/07
建設DXは、人手不足や業務の非効率といった建設業界特有の課題を解決する手段として注目を集めています。しかし「現場に合うのか不安」「導入しても本当に効果があるのか分からない」と、導入に踏み切れない企業も少なくありません。
本記事では、建設DXの基本的な概要から導入が求められる背景、現場で起こりやすい課題やつまずきやすいポイントまで解説しています。
国の支援策や業界全体の動向なども説明しています。
「どこから始めればよいか分からない」と感じている方は、建設業のDXを導入する際の参考にしてください。
建設業界のDXは、人手不足と
業務効率を同時に解決する手段
建設業界では、人手不足や業務の非効率性といった課題が深刻化しています。特に高齢化の進行や働き方改革による労働時間の制限など、現場を取り巻く環境は急速に変化しています。
こうした状況の中、デジタル技術を活用して業務プロセスを見直すことで、生産性の向上を目指す「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の導入が求められるようになりました。
ここではDXの基本的な概念を説明し、建設業界における導入の背景や国土交通省が推進する「i-Construction」の取り組みに関しても紹介します。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の概要
デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、デジタル技術を活用して企業活動や組織全体の仕組みを根本から変える取り組みです。単なる業務のデジタル化にとどまらず、事業構造そのものの見直しにつながる考え方といえます。
例えば製造業では、IoTによる稼働状況の可視化やAIを使った異常検知の導入が進んでいます。流通業では、在庫の自動管理や需要予測への応用が広がっており、デジタル活用の成果が明確に現れているといえるでしょう。
DXは単なる「効率化」の手段ではありません。企業が継続的に成長していくための土台となるものであり、建設業界でもその必要性は高まっています。
建設業におけるDX推進の背景
建設業界でDXの必要性が高まっているのは、他業種とは異なる構造的な課題を抱えているためです。従来のやり方では限界があり、抜本的な業務改革が求められています。
とくに以下のような要因が、DX導入の背景として挙げられます。
| 人手不足の深刻化 |
|
|---|---|
| 業務の非効率性 |
|
| 働き方改革による制約 |
|
例えば、図面や進捗管理が未だ紙運用のままだと、情報の更新が遅れ現場判断に時間がかかることがあります。その結果工期の遅延や人員のムダが生じ、生産性が低下する要因となります。
建設業におけるDXは単なる選択肢ではなく、業界の将来を左右する対応策です。効率化だけではなく、持続的な人材確保や働き方の見直しにも直結するものとして位置づける必要があります。
国土交通省の「i-Construction」
「i-Construction(アイ・コンストラクション)」は、建設現場にICT技術を取り入れ、生産性の向上を目指す国土交通省の取り組みです。建設業界全体の変革を支える政策として、注目されています。
この施策は、国が推進する「生産性革命プロジェクト20」のうちの1つに位置づけられており、2016年度から本格的にスタートしました。
参考資料:国土交通省『「生産性革命プロジェクト 20」具体化状況について』
背景には、建設業界の人手不足や業務の非効率性といった構造的な課題があり、これをICTの活用によって解決しようとする狙いがあります。
i-Constructionが対象とする主なプロセスは、以下のとおりです。
| 測量 | ドローンや3Dスキャナーを活用し、現場を迅速かつ高精度に計測 |
|---|---|
| 設計・施工 | ICT建機やBIM/CIMによる施工の自動化・効率化 |
| 検査 | センサーやカメラでの遠隔確認により、作業の省力化と品質向上を実現 |
上記のような取り組みによって、施工のスピードや精度が高まり、現場の省力化や業務負荷の軽減にもつながっています。ICT活用の標準化が進むことで、今後の現場間連携やノウハウの共有も加速することが期待されています。
i-Constructionは単なる技術導入ではなく、建設業全体の生産性と働き方を抜本的に見直す国の戦略的プロジェクトといえます。
建設業界が抱える課題
建設業界では、慢性的な人手不足や非効率な業務構造といった深刻な課題が、長年にわたって存在しています。現場に求められる対応は複雑化しており、従来の手法だけでは十分に対応できなくなっているのが現状です。
主な課題は、以下の3点です。
それぞれの課題を詳しく見ていきましょう。
高齢化と2025年問題が引き起こす人材流出のリスク
建設業界では、高齢化の進行と団塊世代の引退により、今後さらに深刻な人材不足が生じる可能性があります。これは単なる人手不足にとどまらず、技能の継承や現場力の維持にも影響を及ぼす、構造的な課題です。
特に注目されるのが「2025年問題」です。2025年問題とは、団塊の世代(1947〜49年生まれ)が2025年に75歳以上となり、大量に労働市場から離脱するとされる現象です。
内閣府の「令和6年高齢社会白書」によれば、日本全体の高齢化率(総人口における65歳以上の人口割合)はすでに29.1%に達しており、建設業はその中でも特に高齢従事者の割合が高くなっています。
実際、国土交通省が公表しているデータを見ると、建設業就業者の約3割が55歳以上であり、29歳以下はわずか1割程度にとどまっています。以下の図からも、その実態が明確にわかるでしょう。
このような状況では、今後熟練作業員の大量離職が進む一方で若手の補充が追いつかず技能の断絶や現場の属人化が進行すると懸念されています。
建設業界の高齢化問題は、事業の継続性に直結する深刻なリスクでありDXなどを通じた早急な対応が求められます。
労働時間規制による生産性への影響
建設業界では、2024年4月から時間外労働の上限規制が本格的に適用され、働き方に変化が求められています。この規制は、生産性や工程管理に直結する重要な要素です。
具体的には、以下のような規制内容が設けられています。
時間外労働の上限 原則として月45時間、年360時間まで 罰則付き 違反が確認された場合、企業には行政指導や罰則の適用あり 対象業種 建設業を含む全産業が対象(2024年4月より建設業も適用開始)
建設業では、繁忙期や工程遅延の調整を長時間労働でカバーするケースが一般的でした。しかし、法的な上限が設けられたことで、従来の働き方では工期を守ることが難しくなる場面が増えています。
特に中小建設業者にとっては、人員や管理体制に余裕がなく、対応が追いついていないケースも見られます。
その結果、以下のような影響が懸念されています。
- 工期の遅延リスクが高まる
- 作業工程の見直しが必要になる
- 長時間労働前提の収益モデルが破綻する可能性
労働時間の制約は現場の柔軟な運営を困難にし、生産性を確保するためには抜本的な業務効率化が必要です。工程管理や作業分担を見直し、DXの導入によって業務全体の最適化を図ることが求められています。
現場依存・紙ベース業務の非効率性
建設業界では、現場作業に過度に依存した業務体制と紙ベースの業務運用がいまだに多く残っており、このことが生産性を著しく低下させる要因となっています。
多くの建設現場では、日報の提出や工程の進捗確認、検査結果の共有などが紙ベースで行われています。こうした体制では、情報のリアルタイム共有が困難になり、判断や対応が遅れるケースが少なくありません。
例えば、以下のような課題が現場で発生しています。
- 日報や報告書が紙で提出されているため、確認に時間がかかる
- クラウド未導入により、関係者間の情報共有がリアルタイムで行えない
- 現場に行かないと判断できない状況が多く、意思決定が属人化している
- ノウハウが属人化し、マニュアル化や標準化が進んでいない
上記のような業務構造では作業効率が上がらないばかりか、人に依存した運用によって属人化が進みトラブル時の対応にも支障をきたす恐れがあります。
現場の生産性を高めるには、モバイル端末やクラウドシステムを活用し情報の即時共有・記録・管理を可能にする体制への転換が必要です。
建設DXが進まない理由
DXの必要性が強く叫ばれているにもかかわらず、建設業界では依然として導入が進んでいない現状があります。ICTの活用が進む他業種と比較しても、その遅れは顕著です。
建設業でDXが進まない主な理由は、以下の3点です。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
導入・運用コストの負担が大きい
建設DXが進まない理由の一つが、初期導入や運用にかかるコストの負担です。特に中小企業では、この費用が大きなハードルとなり導入をためらうケースが少なくありません。
DXを進めるには、以下のような投資が必要になります。
- ICT機器や専用ソフトウェアの購入
- 社員向けの操作研修や教育体制の構築
- 既存システムとの連携・カスタマイズ費用
- クラウド利用料やサブスクリプション契約費
上記コストは単発の出費ではなく、継続的に発生する運用コストも含まれます。DXの効果がすぐに見えにくいこともあり「本当に費用対効果があるのか?」などの不安が導入を妨げる要因となっています。
例えば、現場管理アプリや3D測量機器の導入に100万円以上かかるケースもあり、数年かけて回収する見通しが立たない企業にとっては、慎重にならざるを得ません。
DXは長期的には業務改善につながる可能性を持っていても、目の前のコスト負担が大きく、踏み出しにくい現実があるのが多くの現場の本音です。
IT人材・DX推進担当の社内不足
建設業界のDX推進が進まない要因の一つが、社内にITやデジタル分野に精通した人材が不足していることです。必要性を感じていても、推進の担い手がいなければ導入は現実的に困難になります。
DXには、ツールの選定・導入・運用・評価といった一連のプロセスにおいて専門的な知識や技術的な理解が求められます。
しかし、建設業界では長年アナログな業務が中心だったため、ITスキルを持つ人材が育ちにくい構造があるのが現状です。
特に中小企業では、以下のような課題が見られます。
- IT人材がいない、もしくは採用できない
- DXを担当する部署や専任担当者が存在しない
- 外部ベンダーに依存しすぎて内製化が進まない
- 現場スタッフとのリテラシー格差が生じる
例えば、新しい施工管理アプリを導入しても、現場との連携がうまくいかず放置されるケースや「そもそもどこから手をつければいいかわからない」といった声も少なくありません。
DXを推進するには技術だけではなく、社内に根づかせるための人材・体制の整備が必要です。人がいなければ、どんなに優れた仕組みも定着しません。
既存業務とのミスマッチと現場への定着の難しさ
建設DXを導入したとしても、既存の業務プロセスと合わない場合、現場でうまく定着しないことがあります。ツールや仕組みがあっても、実際に使われなければ効果は発揮されません。
DXツールは、業務の効率化や情報共有を目的に設計されています。しかしそれは、導入企業の業務フローに合っていなければ、現場の混乱を招くだけになってしまいます。
特に、日々の作業に追われる現場では「新しい操作を覚える余裕がない」「従来のやり方のほうが早い」といった声が出やすいのが実情です。
現場でよく見られる課題には、以下のようなものがあります。
- 導入したシステムが実際の業務と合っていない
- 現場スタッフのITリテラシーにバラつきがある
- 操作説明や導入支援が不十分で、使い方が浸透しない
- 試験導入で終わってしまい、本格運用に至らない
例えば、進捗管理アプリを導入した企業でも「操作に時間がかかる」「誰も確認していない」といった理由で、紙ベースの管理に戻るケースもあります。
DXを進めるためには、単に技術を導入するだけではなく、現場に合った設計・教育・支援をセットで進めることが必要です。定着の難しさは、運用設計とコミュニケーションの問題でもあります。
大手建設会社の具体的なDX事例
建設業界全体ではDXの導入が進みにくい現状がありますが、その中でも先進的な取り組みを行い、成果を上げている大手企業も存在します。
特に大手企業では、ICTやAI、IoTなどの技術を積極的に活用し、現場の省力化や遠隔操作による安全性向上や作業の効率化といった面で具体的な成果を上げています。
ここでは、建設業界をリードする大成建設と竹中工務店の事例を紹介し、それぞれがどのようにDXを活用して現場課題を解決しているのかを見ていきましょう。
大成建設|ロボットによる現場巡視
建設現場では、広範囲にわたる作業エリアの安全確認や設備の監視を、作業員が目視で行ってきました。これには多くの人手と時間が必要で、作業負担や人的ミスのリスクも大きな課題でした。
こうした課題に対し、大成建設は「T-InspectionX」を活用した自律移動ロボットによる現場巡視の実証実験を行いました。このロボットはあらかじめ設定されたルートを自動で巡回し、カメラを通じて現場の様子をリアルタイムで送信し、現場外にいながら巡視が可能となります。
取り組みにより、作業員の巡視負担が軽減され、異常の早期発見や安全管理の精度が向上しました。
複数現場の同時監視も可能となり、少人数でも効率的な現場運営が実現します。今後はAIを活用した異常検知や他システムとの連携も視野に入れ、さらなる高度化が期待されています。
参考:大成建設株式会社『 ロボットによる現場巡視』、 『四足歩行ロボットの遠隔操作・自律制御による巡回システム「T-InspectionXを開発」』
竹中工務店|タワークレーン遠隔操作システムを導入
高層ビルなどの建設現場では、タワークレーンの操作を現場最上部にある操作室から行う必要がありました。そのため、極度の緊張環境や高所作業のリスク、さらには移動にかかる時間的ロスといった問題が常に付きまとっていたのです。
特に、悪天候時や緊急時における安全確保は、課題の一つでした。
こうした課題を解消するため、竹中工務店は遠隔施工オペレーションシステムの実用化に取り組みました。
このシステムでは、オペレーターが現場から離れた安全な場所に設けた操作室から、タワークレーンをリアルタイムで操作できます。5G通信と高精度カメラにより、映像を複数のモニターに表示し、現場にいるかのような視認性を実現しています。
この遠隔操作により、高所作業のリスクが軽減されただけではなく、オペレーターの移動負担も削減されました。複数の現場を1人で担当できる体制づくりにもつながり、省人化や働き方の柔軟性向上が期待されています。
2022年の実証実験を経て、今後は他の建設機械や業務領域への展開も検討されています。
参考:竹中工務店『
タワークレーン遠隔操作システム「TawaRemo」を開発』
BUILT『
竹中と鹿島がタワークレーン遠隔操作システムを工事に本格導入、作業時間を30分短縮』
まとめ
建設業界では、人手不足や業務の非効率といった構造的な課題が深刻化しています。これらを乗り越えるためには、デジタル技術を活用した抜本的な業務改革、すなわちDXの導入が必要です。
本記事では、建設業界のDXの概要や導入背景、国の取り組みである「i-Construction」、さらには現場の課題や進まない理由、先進的な事例までを解説しました。
「どのようにDXを進めればいいか分からない」「まずは現場の業務を少しずつ効率化したい」と感じている方には、建設業向けの施工管理アプリ「PRODOUGU(プロドウグ)」の導入がおすすめです。
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